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東京地方裁判所 昭和50年(ヨ)2238号 決定

東京都板橋区中台二丁目四番七号河原方

申請人 梅津佳津美

東京都板橋区蓮根一丁目三〇番一三号第一かのえ荘

同 中馬はつ子

右申請人ら訴訟代理人弁護士 守川幸男

同 紙子達子

同 門屋征郎

同 小見山繁

同 小林幹治

同 椎名麻紗枝

同 菊池紘

同 江藤鉄兵

同 島田隆英

同 福本嘉明

東京都板橋区志村二丁目一六番二〇号

被申請人 株式会社コパル

右代表者代表取締役 笠井正人

右訴訟代理人弁護士 秋山昭八

主文

一  申請人両名が被申請人に対して労働契約上の権利を有することを仮に定める。

二  被申請人は、申請人梅津佳津美に対し、昭和五〇年二月一二日以降金八〇、二〇〇円を、申請人中馬はつ子に対し、昭和五〇年三月一八日以降金八八、八五〇円を、いずれも本案判決確定に至るまで毎月二七日限り仮に支払え。

三  訴訟費用は被申請人の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一  申請人ら

主文一、二項同旨

二  被申請人

本件申請を却下する。

訴訟費用は申請人らの負担とする。

第二当裁判所の判断

一  当事者

被申請人は、昭和二四年に設立され、光学機械、精密機械、電気機械器具、計量器、工作機械器具の製作販売などを目的とする株式会社であり、昭和五〇年三月四日当時、従業員数約一、四〇〇名、資本金一四億七、〇〇〇万円であった。

以上の事実は当事者間に争いがない。

二  雇用関係

疎明と審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。

申請人梅津は、昭和三七年四月に被申請人に雇用され総務課電話交換室に電話交換手として勤務していたが、同四五年一二月二一日からは労務課食堂事務所に勤務するようになった、申請人中馬は、昭和三六年一月二三日に被申請人に雇用され製造部第一課に勤務していたが、同三九年からは同部第二組立課勤務となり、さらに同四二年からは同部第三組立課修理班(同四三年以降「光機事業部営業部客修課」と改称されている。)に勤務するようになった。申請人梅津は、昭和五〇年二月一二日当時毎月金八〇、二〇〇円、申請人中馬は、昭和五〇年三月一八日当時毎月金八八、八五〇円を、それぞれ給与として毎月二七日限り支給を受けていた。

三  解雇の意思表示

疎明と審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。

被申請人は、昭和五〇年二月一二日、申請人梅津に対し、就業規則五〇条八号、労働協約二五条七号に該当するとして、解雇予告手当を提供のうえ、同日限り解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。被申請人は、昭和五〇年二月一九日、申請人中馬に対し、就業規則五〇条八号、労働協約二五条七号に該当するとして、同年三月一八日限り解雇する旨の予告解雇の意思表示(以下「本件予告解雇」という。)をした。

四  解雇の効力

(一)  疎明と審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。

就業規則五〇条には、「従業員が次の各号の一に該当する場合には、会社はこれを解雇する。」としてその八号に「事業上の都合によりやむを得ない事由のあるとき。」を掲げている。次いで、被申請人と被申請人の従業員らをもって構成する申請外コパル労働組合(以下「組合」という。)との間の労働協約二五条には、「会社は、組合員が次の各号の一つに該当する場合は、解雇する。(後略)」としてその七号に「その他、会社、組合双方が協議決定したもの」と定めている。ところで、被申請人と組合との間には、昭和五〇年一月二七日、組合志村支部及び郡山支部所属の組合員に対する人員整理について協定が成立したところ、右協定中には、「1 人員整理については下記のとおり実施する。(1)対象者及び方法(中略)(ロ) 既婚女子社員で子供が二人以上いる者については解雇する。その場合でも極力本人と話し合い円満退職の方向につとめる。(後略)」との定め(以下「本件人員整理基準」という。)が設けられた。

申請人らは、いずれも本件解雇または本件予告解雇の当時既婚女子社員で、申請人梅津は四才の女児と三ヶ月の男児がおり、申請人中馬は一才の男児と二ヶ月の女児がおり、子供が二名いる者に該当していた。そこで、被申請人は、申請人らを解雇または予告解雇に及んだ。

(二)  申請人らは、前記協定によって定めた、既婚女子社員で子供が二人以上いる者を解雇するという本件人員整理基準は、憲法一四条、労働基準法三条、民法九〇条に各違反する無効なものであると主張する。

よって検討するに、単に既婚女子社員で子供が二人以上いる者を解雇するという一般的な人員整理基準は、既婚女子で子供が二人以上いる者に対する差別待遇にほかならず、しかも一般的に右のような差別や制限をする合理的な根拠を発見することもできず、結局、憲法一四条、労働基準法三条、四条の精神に違反するものであるから、民法九〇条により無効であるというべきである。このことは、本件人員整理基準が労働協約として成立していても、同様である。

したがって、無効な人員整理基準に基づく申請人梅津に対する本件解雇、申請人中馬に対する本件予告解雇は、いずれも効力を生ずるに由ない。

五  被保全権利

以上のようであるから、申請人らと被申請人との間には、依然として雇用関係が存続しているものであって、申請人らは労働契約上の権利を有し、申請人梅津の請求にかかる昭和五〇年二月一二日以降金八〇、二〇〇円、申請人中馬の請求にかかる昭和五〇年三月一八日以降金八八、八五〇円の給与をいずれも本案判決確定に至るまで毎月二七日限り支払いを受けるべき権利を有するものというべきである。

六  保全の必要性

疎明によれば、申請人らは、それぞれ夫の給与収入があることが認められるが、子供二人を有し、右給与のみで、被申請人からの賃金の支払なく生活を営むとすると、申請人らはその生活に困窮して、著しい損害をこうむるおそれがあると認めるのが相当である。したがって、本件仮処分の必要性は認められる。

七  結論

よって、申請人らの本件仮処分申請は、理由があるから、申請人らに保証を立てさせないで、これを認容することとし、訴訟費用の負担について、民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮崎啓一 裁判官 佐藤栄一 裁判官 仙波英躬)

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